今夜、暇を取らせていただきます

文化的ニート(令和版)

【童話】魔女狩り

 信じられないかもしれないが、この世界に魔女がいる。そう言われたときに、昔の人は恐れて、「魔女」って存在を具体化しないままで民衆を殺したそう。現代の人はそんなことしないよ、優しいからね。ただ「保護しましょう」「見守って生きるのを手助けしましょう」という冷たい血の匂いがする言葉を吐く。そこに愛情なんてない。やりたいのは監視と観賞と干渉、得たいのはユーモアとインスタ映え。無毒な世界を生きましょう。清潔でいましょう。私達が見守ってますから、大丈夫ですよ。でもさ、どうやら、魔女は保護後二日で自殺したらしいよ、知ってる?

 

 魔女の自殺の責任の所在を、誰もが隠匿しようとしたらしい。当事者を巻き込まないようにしましょう、そう呟いていたはずなのに、君は二日後に見殺しにしたらしい。魔女の友達は「保護」時点で泣きながら怒った。「これは拉致だ」と。誰も聞いちゃくれなかったらしい。ウケるね。インスタ映えよりも大事なものなんてこの世にないよね。

 

 ちなみに、魔女は誰にも知られずに生き返った。「誰が魔女を見殺しにしたんだ」「私じゃない」「犯人は誰だ」と喚く人たちをゆっくり友達と頭上から見下ろしていた。その時二人で飲んだサングリアは、月と同じ赤色だった。

 

 魔女は少年に言った。
 「怒りをどうにかしたいときは、怒りを因数分解してみるといい。何に怒っていて、何に怒らされていて、それを実質的に操る者は誰で、自分はどこにいるのか。それさえ分かれば、どんなものも笑い話になるのだ」


 「あの人をどこかで支援しよう、という言葉は、自分が相手よりも優位に立とうとしているときにしか使えない。それを”かわいいもの”として見ること、それが大人なのだ」


 「人を簡単に嫌いになると損ばかり喰らってしまうから、いやになりそうになったら、どうでもいいところに置いておくこと。嫌いなものを恨む時間があるなら、本当に好きなものをもっと好きになる時間に使いなさい」


 少年は少し大人に近づいた気がして、サングリアを一気飲みした。月と同じ色の液体を体内に入れて、少年は頬を赤くして眠ってしまった。

 

 お前のせいだ。